脱退一時金とは、外国人が日本で働いた期間に支払った年金保険料の一部を、帰国後に払い戻しできる制度です。
日本で働く外国人にも、雇用形態や働く時間に応じて社会保険への加入が義務づけられています。中には短期間だけ働いて帰国する外国人もいるため、支払った年金保険料が無駄にならないように、この制度が設けられました。
ホテルや旅館でも、特定技能をはじめとした外国人の活躍が増えています。企業側も制度の仕組みを理解していないと、誤解や不安が生まれ、雇用する外国人との信頼関係にも影響しかねません。
この記事では、ホテル・旅館業界で外国人を雇用する企業に向けて、脱退一時金の基本から申請の流れ、現場での対応ポイントまで分かりやすく解説します。
ホテル・旅館業界では、特定技能の他にも技術・人文知識・国際業務などの在留資格を持つ外国人を雇用できます。詳しくは以下の記事をご覧ください。
特定技能とはどんな在留資格なのか分かりやすく解説!ホテル・旅館の外国人採用
技術・人文知識・国際業務(技人国)とは?ホテルでできる仕事や職種を徹底解説!
目次
脱退一時金とは?

脱退一時金とは、日本で働いた外国人が帰国後、支払った年金保険料の一部を受け取ることができる制度です。日本で働いた期間に納めた保険料の一部が払い戻される仕組みで、将来日本の年金を受け取らない外国人を対象としています。
日本の年金制度は「国民年金」と「厚生年金」の2種類があり、どちらに加入していた場合も脱退一時金の対象となります。アルバイトや短時間勤務で国民年金に加入していた人も、正社員や契約社員として厚生年金に加入していた人も、条件を満たせば受け取ることができます。
このように、脱退一時金は日本で公的年金に加入していた外国人なら、働き方や在留資格にかかわらず対象となる制度です。ホテル・旅館などで外国人スタッフを雇用する企業にとっても、退職や帰国の際に正しく案内できるよう、制度の基本を理解しておくことが求められます。
脱退一時金の支給条件

脱退一時金を申請するには、以下の条件を満たす必要があります。
- 日本国籍を有していないこと
- 公的年金制度(厚生年金保険または国民年金)の被保険者でないこと
- 厚生年金保険(共済組合等を含む)の加入期間の合計が6か月以上あること
- 老齢年金の受給資格期間(10年間)を満たしていないこと
- 障害厚生年金(障害手当金を含む)などの年金を受ける権利を有したことがないこと
- 日本国内に住所を有していないこと
- 最後に公的年金制度の被保険者資格を喪失した日から2年以上経過していないこと
(資格喪失日に日本国内に住所を有していた場合は、同日後に初めて、日本国内に住所を有しなくなった日から2年以上経過していない)
(参考:日本年金機構「脱退一時金の制度」)
このように、脱退一時金を受け取るにはさまざまな条件があります。
日本に住所がないことが条件の一つですが、出国前に請求手続きを行うこと自体は可能です。その場合、住んでいる市区町村に住民票の転出届を提出したうえで、転出届に記載された転出(予定)日以降に、脱退一時金請求書を含む必要書類が日本年金機構等に到着するように郵送する必要があります。
また、永住者も日本国籍を持たないため、条件を満たせば脱退一時金を申請できます。出国後に日本国内に住所がなくなったと認められれば、永住権を放棄しなくても申請が通ることがあります。
ただし、年金の受給資格期間(10年)を満たしている場合は注意が必要です。永住者は、20歳から60歳までの間に海外で過ごした期間も「合算対象期間」として受給資格に含められるため、この期間を含めて10年以上になると脱退一時金の対象外となります。
脱退一時金の申請方法

脱退一時金を受け取るには、外国人本人が手続きを行う必要があります。日本を出国したあとに書類を準備し、指定の機関へ郵送またはオンラインで申請します。
区分 | 内容 |
---|---|
提出者 | 外国人本人または代理人 |
提出先 | 日本年金機構本部または各共済組合等 ※加入していた制度や期間により異なる |
提出方法 | 郵送または電子申請 ※就労以外の目的で来日した場合、年金事務所または街角の年金相談センターの窓口でも提出可能 |
提出時期 | 外国人が日本の住所をなくして出国後2年以内 |
ここでは、手続きの流れを3つのステップに分けて説明します。
①脱退一時金請求書の作成
脱退一時金を受け取るには、日本年金機構が定める「脱退一時金請求書」を作成します。この請求書は、外国語と日本語が併記された様式となっており、以下の14か国語に対応しています。
英語/中国語/韓国語/ポルトガル語/スペイン語/インドネシア語/フィリピノ(タガログ)語/タイ語/ベトナム語/ミャンマー語/カンボジア語/ロシア語/ネパール語/モンゴル語
日本年金機構の公式ホームぺージ「脱退一時金に関する手続きをおこなうとき」からダウンロードでき、「ねんきんダイヤル」に電話すれば郵送してもらうこともできます。
記入内容には、基礎年金番号・勤務先情報・振込口座(海外銀行口座など)の情報が含まれるため、企業としては在職中に外国人が必要な情報を正確に把握できるようにしておくことが望まれます。退職証明書の発行時に、年金加入期間や加入していた事業所名を一緒に伝えると、本人の手続きがスムーズになります。
②添付書類の準備
脱退一時金請求書のほかに、以下の書類をすべて添付する必要があります。これらの書類は本人が準備するものですが、退職時に一覧で案内しておくことで漏れや誤りを防ぐことができます。
- パスポート(旅券)の写し
- 日本国内に住所を有しないことが確認できる書類
(住民票の除票の写しやパスポートの出国日が確認できるページの写しなど) - 受取先金融機関名、支店名、支店の所在地、口座番号、請求者本人の口座名義であることを確認できる書類
- 基礎年金番号通知書または年金手帳等の基礎年金番号を明らかにすることができる書類
- 委任状(代理人が請求手続きを行う場合)
③書類を指定機関へ提出
脱退一時金請求書と必要書類が揃ったら、日本年金機構本部や各共済組合等の指定機関に郵送または電子申請で提出します。
提出した書類に不備がなければ、請求書の受付からおよそ4か月後に支払われます。審査状況や書類の不備などによっては、さらに時間がかかることもあるため、余裕をもって申請するよう伝えましょう。
脱退一時金の支給額の目安

脱退一時金の支給額は、加入していた年金の種類や期間、給与額などに応じて異なります。
厚生年金の場合、以下の計算式で算出されます。
被保険者期間の平均標準報酬額×支給率(保険料率×2分の1×支給率計算に用いる数)
※平均標準報酬額は被保険者であった期間の月収、賞与を基に算出
※支給率は資格喪失の時点での保険料率に応じて決定
厚生年金の脱退一時金は、標準報酬月額(給与の平均額)と加入月数によって計算されます。たとえば、給与20万円、賞与年間30万円、社会保険加入期間3年の場合、おおよその支給額は75万円前後となります。
ただし、支給額はあくまで目安です。実際には加入期間や報酬水準によって異なることを企業としても理解し、外国人にも説明するようにしましょう。
脱退一時金について企業側が気をつけるべきポイント

脱退一時金は、帰国後に外国人本人が申請する制度ですが、企業が制度の仕組みを理解していないと誤った案内をしてしまうおそれもあります。
ここでは、特定技能の外国人を受け入れるホテル・旅館企業が特に気をつけるべき3つの点を紹介します。
①脱退一時金を受け取った期間は通算されない
脱退一時金を受け取った期間は、日本の年金加入期間として通算されないことに注意が必要です。将来再び日本で働くようになっても、過去に脱退一時金を受け取った期間はリセットされ、年金受給資格の計算に含まれません。
ホテルや旅館で働く外国人スタッフの中には、特定技能から別の在留資格に切り替えて長期滞在を希望する人もいます。そのようなスタッフには、脱退一時金を受け取ると、受け取った期間分は将来の年金に加算されないことを明確に説明しておくと、後のトラブルを防ぐことができます。
②脱退一時金の対象期間は「5年」が上限
厚生年金・国民年金ともに、脱退一時金の支給対象となるのは、年金加入期間のうち最長5年(60か月)までです。つまり、日本で6年以上働いても、支給の対象となるのは最初の5年分のみとなります。
また、脱退一時金の申請には回数制限がないため、以前に受け取ったことがあっても条件を満たせば再度申請できます。最初の来日時に2年間働いて帰国後に2年分の脱退一時金を受け取り、その後再来日して3年間働いたのちに再び3年分を申請する、といった形も認められます。
③社会保障協定を結んでいる国の外国人には注意
日本では、二重の社会保険料負担を防ぐために、中国やインド、フィリピンなど「社会保障協定」を結んでいる23の国があります(参考:日本年金機構「社会保障協定」)。
社会保障協定は、日本と相手国との間でどちらの国の社会保障制度に加入するかを調整したり、年金を受け取るための加入期間を通算できるようにするための取り決めです。
そのため、協定を結んでいる国の出身者は、脱退一時金を申請せずに、母国と日本の年金加入期間を合算し、将来母国の年金として受け取る選択肢があります。もし脱退一時金を受け取ってしまうと、その期間は母国での年金加入期間として通算できなくなり、結果的に将来の年金受給資格を失うおそれもあります。
ホテルや旅館などで外国人スタッフを雇用する企業は、在留カードやパスポートの国籍欄を確認し、その国が社会保障協定の対象かどうかを把握しておくことが大切です。特に長期的な雇用を予定している場合は、帰国時に「脱退一時金の申請」か「母国での通算」のどちらが有利かを本人に説明し、誤った申請を防ぐようサポートすることが求められます。
脱退一時金制度を理解し正しい案内・判断を!

今回は、脱退一時金制度について解説しました。
脱退一時金は、日本で一定期間働いた外国人が帰国後に年金保険料の一部を受け取れる制度です。支給には条件や申請期限があり、外国人本人が申請する必要があります。そのため、制度についてしっかり理解していないと、帰国後に受け取れないケースも少なくありません。
外国人に「日本で働いてよかった」と感じてもらうためには、給与や待遇だけでなく、帰国後の生活にも配慮した支援が欠かせません。ホテルや旅館で外国人を雇用する企業においても、退職や帰国の際に正しい情報を伝えられるように制度の仕組みをきちんと把握しておくことが大切です。とくに出国後2年以内に申請が必要であることや、添付書類の準備、提出先・提出方法などを説明できるようにしておきましょう。事前ガイダンスや退社手続きマニュアルなどに含めておくことも有効です。
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